ルッツ・カイザーさんと「OTRAG」ロケットのドキュメンタリー映画『FLY ROCKET FLY』
ドイツ生まれのロケット科学者ルッツ・カイザーさんと、彼の手がけた「OTRAG」ロケットを追ったドキュメンタリー映画『FLY ROCKET FLY』が制作されたそうです。監督はOliver Schwehmさんという方で、ドイツでは2018年9月27日に公開。
ロケットオタに生まれたからには、誰でも一生のうち一度は夢見る、未だかつてない画期的なロケット。かくいう私もそうだったのですが、そんな人が(深夜にEncyclopedia Astronauticaあたりを漁って)最初に行き着くであろうロケットが「OTRAG」だと思います。
OTRAGは、西ドイツのロケット科学者ルッツ・カイザー(Lutz Kayser)さんらが1970年代に開発したロケット(また同時に設立した会社の名前)で、超非力で超低コストなロケットを、数十基から100基以上も束ねてひとつのロケットにし、衛星を打ち上げようというもの。規模の経済も働くことで、打ち上げコストを従来の10分の1にしようと考えられていました。毛利元就も裸足で逃げ出しそうです。
1970年代というと、スペース・シャトルに代表されるように、世界は再使用型ロケットに移行しようとしていた時期ですが、その真逆を行く、それも究極まで突き詰めようとする発想が最高にロックです。さすがクラウトロック発祥の国。
ところが、ザイール(現在のコンゴ)やリビアといった国で打ち上げ実験を行ったことから、いろんな国から怒られて計画は頓挫。たしかに、地政学的に、また歴史的に、西ドイツからはロケットを打ち上げにくかったとは思いますが……。
その後カイザーさんはリビアに住み、さらにマーシャル諸島に移住したのち、2008年には米国のインターオービタル・システムズ(Interorbital Systems)に入社。OTRAGとまったく同じコンセプトの「ネプチューン(NEPTUNE)」というロケットの開発を手がけますが、一度も宇宙へ飛ぶ姿を見ることなく、2017年11月19日にこの世を去ります。インターオービタルはいまなおネプチューンの開発を続けていますが、まだ宇宙へ届く日は見えない状況です。
予告編を見る限り、実際の打ち上げの映像や、晩年のカイザーさんへのインタヴューなどが盛りだくさんで、予告編だけでも見どころ満載。初めて見る映像ばかりで思わず見入ってしまいました。なにこれ滾る!
残念ながら日本での公開予定はないようですが、ソフト化やネット配信されたらぜひ観てみたいですね。
4月17日追記
読者の方から、「ルフトハンザドイツ航空の機内映画として提供されており、観ることができました」との情報を提供していただきました。もし近々、ドイツへ行かれる方がいらっしゃいましたら、ご参考までに。
ひとつ古い記事 『軍事研究』2019年4月号
ひとつ新しい記事 BSテレ東『日経プラス10サタデー ニュースの疑問』
コメント
ドバイ行き、カタール航空機内で視聴できました。
本日(2021年4月16日 0:15~0:55)NHKのBS1の「世界のドキュメンタリー」で、邦題「民間初のロケットに挑んだ男」として放送されました。初めて見る映像ばかりです。
1970年代のこと。資金を集めそのための会社を設立。その資金でロケット発射施設を、アフリカ・ザイールに建設。
ここで民間の人工衛星の打ち上げに情熱を傾けていた、ドイツ人科学者や技術者達がいたことを初めて知りました。
そして、奇しくも映画「スターウォーズ」が初公開された1977年。試験機の打ち上げに成功。
しかし、成功したが故に起こってきた政治的疑念による圧力、マスメディアからは、揶揄記事など事実を曲げた報道をされて。そして、ドイツ人がロケット開発を行うことからの猜疑心。隣国アンゴラからは、軍事行動を臭わせる発言等。
結局、技術ではなく、周囲の圧力によって、計画の継続ができなくなってしまいます。
もし、この会社が実施に向けて、このまま歩むことができていたら、きっと20世紀中に、民間人工衛星打ち上げ会社が生まれていたことでしょう。
とても内容のある番組で、今後再放送もあるかと、期待できます。
その時には、録画を忘れずに!
NHK世界のドキュメンタリー「民間初のロケットに挑んだ男」としてBS1にて何度か放映されているようです。私は21.4/16の放送を観ました。
コンゴでの打上げ、解放戦線が迫る中でフランス外人部隊を雇って村の住人と守備隊を作ったり…一本の映画を観るような素晴らしいドキュメンタリーでした。
NHKオンデマンドでも配信されてるようです。
リンク先、NHKのURLを貼りましたのでご参考まで。